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福岡高等裁判所 昭和44年(ネ)521号 判決

控訴人 株式会社山内本店

右代表者代表取締役 山内忠次郎

右訴訟代理人弁護士 塚本安平

被控訴人 有限会社油屋本店

右代表者代表取締役 楢木野判

右訴訟代理人弁護士 衛藤善人

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、次のとおり附加するほかは、原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

≪以下事実省略≫

理由

一  被控訴会社は、控訴会社八代出張所を通じ、控訴会社に対し特撰白絞油を売渡す取引をした旨主張する。しかし、≪証拠省略≫によれば、熊本県八代市新開町の訴外西島重雄方店舗には控訴人会社製品を表示した「ヤマウチ醤油八代出張所西島商店」と横書した看板がかかげられてはいたが、右西島商店は訴外西島重雄の個人営業であって、控訴会社の営業の一部を行う出張所でなかったことが認められ、他に控訴会社の営業の一部を担当する八代出張所なるものが開設されていたことを認めるに足る証拠はないので、被控訴会社の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  よって、次の被控訴会社の予備的主張について判断する。被控訴会社の主張する食用油の取引が、被控訴会社と訴外西島商店こと西島重雄との間でなされたものであることは、当事者間に争いがない。ところで、被控訴会社は控訴会社が西島商店の店舗に「山内醤油八代出張所」なる表示を許容していたので、控訴会社を本件食用油の取引の相手方と信じてこれをなした旨主張し、≪証拠省略≫を総合すると。

(一)  控訴会社は熊本市に本店を置く味噌醤油類の製造販売を業とする創業の古い会社であって、その製品は「ヤマウチ醤油」「ヤマウチ味噌」の商標で広く九州一円に販売されており、一方訴外西島商店(西島重雄)は昭和三一年ごろから八代地区におけるヤマウチ醤油類の卸商として営業を開始した店舗であること。

(二)  昭和三八年ごろ右西島重雄は控訴会社従業員訴外伊勢野実の紹介により被控訴会社から食用油を買受ける取引を開始したこと。

(三)  右西島重雄方は西島商店と称していたが昭和三八年ごろからその店舗に「ヤマウチ醤油八代出張所西島商店」と横書した看板を掲げていたこと。

(四)  控訴人会社従業員訴外吉村敏夫は同会社の八代地区販売員であったが、昭和三七年ごろ前記西島重雄の長女シゲミと婚姻し、前記西島方に同居しながら控訴会社に勤務するかたわら、右西島商店の営業を加勢したこともあること。就中右西島商店が被控訴会社から食用油を仕入受領するについて控訴会社の自動車を使用して運搬したこともあったこと。

(五)  右西島重雄が被控訴会社に対する食用油買掛代金支払のため、被控訴会社に交付した為替手形の引受欄の記名には熊本県県八代市新開町一五〇四「ヤマウチ醤油八代出張所西島重雄」という表示のゴム印を使用していたこと。等の事実が認められないわけではない。しかしながら、一方前記各証拠によると、

(六)  控訴会社の営業は、味噌醤油類の製造販売ならびにこれに付帯する事業のみであって、本件白絞油のごとき食用油類の取引の如きは全くその営業の範囲外のものであったこと。このことは控訴会社が西島商店に使用を許容していたという「ヤマウチ醤油八代出張所」なる表示自体によって明らかであるばかりでなく、熊本地方においては一般に周知の事実であったこと。

(七)  西島商店と取引のあった多くの業者が味噌醤油類以外の取引について西島商店を控訴会社の八代出張所と誤認したことはなく、右取引は西島商店個有の営業として右西島商店こと西島重雄を相手としてこれをなし、西島商店の仕入伝票、領収書等の宛名も西島商店の名称が使用されていたこと。

(八)  前記(二)記載の訴外伊勢野実による紹介も熊本市所在の被控訴会社において行われたものであり、かつ、西島重雄を控訴会社の得意先ないしは控訴会社の味噌醤油の卸屋として紹介したものであったこと、

(九)  被控訴会社備付の売掛台帳の口座の記載が、氏名西島商店殿或は西島殿とあって、山内醤油八代出張所はその住所欄に記入されていること。

等の事実が認められるのであって、以上認定の各事実に徴すると、未だ被控訴会社が本件食用油を売渡すに当り、西島商店を控訴会社の八代出張所(従って取引の相手方は控訴会社)と誤認していたものと断ずるには十分でない。≪証拠判断省略≫また、仮に被控訴会社が西島商店を控訴会社の八代出張所と誤認していたとしても、商号の使用を許諾した者の責任は、特段の事情のない限りその営業と許諾を受けた者の営業とが同種のものであることを原則とすべきところ、本件においては控訴会社の業種とは無関係な営業の範囲外の取引であること前示認定のとおりであるばかりでなく、前示認定にかかる諸般の事情を彼我参酌して考えると未だ被控訴会社が西島商店の本件取引と控訴会社の営業とが業種を異にするにかかわらず、なお控訴会社をして商法第二三条により商号許諾者に責任を負わせるのを相当とする特段の事由がある場合に該当するものとは解しがたい。

以上によれば、被控訴会社の本訴予備的請求も理由がないので被控訴会社の請求はすべてこれを棄却すべきである。

よって、これと判断を異にする原判決は失当であって、本件控訴は理由があるので、原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江啓七郎 裁判官 塩田駿一 境野剛)

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